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商品化権許諾契約とは
「商品化権許諾契約」または「キャラクター商品化ライセンス契約」とは、漫画やアニメのキャラクターデザインなどの著作物について、これらを玩具、衣類、包装、広告などの商品や販促物に使用することを許諾する契約です。「商品化権」という呼称は、商慣習上の名称であり、著作権法上は、著作物の複製権や譲渡権ないしは翻案権の許諾契約として構成されます。
権利を許諾するライセンサーにとっては、製造設備に対する資本投下や仕入れコスト、在庫リスクなどを負担することなく、グッズを展開することができ、それによる商品の売上からロイヤリティーを得ることができるメリットがあります。一方でライセンシーにとっても、キャラクターの有する顧客吸収力を活用することで、商品の認知度や訴求力を向上させることができます。
海外においては、このようなライセンシングを専門とする事業者がマスターライセンシーとなり、出版社などのライセンサーから許諾された権利を、メーカーや小売店などのサブライセンシーにさらに再許諾することで、大規模なIPビジネスが展開されています。国内では、このような専門事業者はいまだ少数であるため、出版社やクリエイター等とメーカーや小売店が直接契約することが多いと思われます。
商品化権許諾契約の契約書は、ライセンサーから雛型を提示することが多いため、ライセンシーとしては、許諾期間やロイヤリティーの支払方法など、その契約書案が自社の事業にとって合理的であるかどうか検討する必要があります。
なお商品化に当たって、第三者から著作権について権利主張されるリスクがある場合などには、あらかじめ許諾対象の著作権を文化庁に著作権登録しておくことも考えられます。
商品化権のロイヤリティー
商品化権許諾契約においてロイヤリティーの支払いは、著作物の使用の対価であるため、契約上の最も重要な要素の一つとなります。ロイヤリティーの支払い方法としては、定額方式、定率方式、分配方式があります。
定額方式:ライセンスの使用による売上や利益にかかわりなく、定額を支払う
定率方式:ライセンスの使用に係る売上の一定割合を支払う
分配方式:粗利(売上-売上原価)の一定割合を支払う
定額方式の場合、商品の販売実績に関わりなく定額を受け取れるため、ライセンサーは収益の予測可能性が向上します。一方でライセンシーは定額を控除した残存利益を総取りできますが、売れ残りのリスクを全面的に負担することになります。
これに対して、定率方式又は分配方式の場合、利益を折半することができますが、販売実績が不調の場合、ライセンサーは十分なロイヤリティーを確保できないおそれがあります。
またロイヤリティーの発生対象として、製造数量によりロイヤリティーを算定する方法と、販売数量によりロイヤリティーを算定する方法があります。ライセンサーとしては、製造の段階でロイヤリティーを徴収することに合理性があります。
なお分配方式においては、ロイヤリティーの算定に当たり売上原価を考慮するため、よりフェアな折半が可能となります。一方で売上原価に関する報告書の提出など、ライセンサーによる管理監督コストが発生してしまうおそれがあります。そのため当事者に信頼関係がある場合には、分配方式を選択することも考えられます。
このようにそれぞれに一長一短がありますが、一般的には、定率方式又は定額方式と定率方式の組み合わせが好んで用いられます。定額方式と定率方式を組み合わせる場合、一定額を最低保証料ないしはミニマムロイヤリティーとして支払った後、商品の売上に応じて、さらにランニングロイヤリティーの支払を行うことになります。
この場合、ランニングロイヤリティーの支払いにおいては、最低保証料を一定数の販売実績を担保するものとみなして、ランニングロイヤリティーから最低保証料を控除する方法と、控除しない方法があります。
条文例:最低保証料を控除する場合
第〇条(ロイヤリティーの支払い)
ライセンシーは、ライセンサーに対し、以下の各号に定めるロイヤリティーを、ライセンサーが別途指定する方法により支払う。
最低保証使用料として、○○円を〇年〇月〇日までに支払う
本商品の製造数量が〇個を超過した場合、追加製造数量1個に対し、使用料として1個あたり○○円を支払う
商品化権の許諾地域
商品化権許諾契約においては、「商品化権」という権利を取引することとなるため、その権利の内容として、許諾地域ないしは許諾期間については、通常の契約以上に重要な意味があります。ライセンシーはその許諾範囲内において著作物を使用する権利を得る一方で、ライセンサーはその許諾範囲内において著作権をライセンシーに対して行使しない義務を負うことになり、それこそが許諾契約の実質となるためです。
許諾地域としては、「日本」や「アメリカ」など国が単位となる場合の他、「東京都」「和歌山」のように都道府県や市町村を単位とすることもできます。列挙することが煩雑となるときは、「ヨーロッパ」や「東南アジア」のように地域を包括的に指定することも考えられます。また「名古屋圏を除く日本国内」のように特定の地域を排除し、他のライセンシーとの権利の衝突を回避したり、ライセンサー自らの直販のための地域を残しておくことも可能です。
このような許諾地域の定めを実効的とするため、「許諾地域外へ商品を輸出する恐れのある事業者に対しては販売しない」旨を合意するなどして、ライセンシーによる許諾地域の規定の潜脱を防止する場合もあります。
商品化権と許諾期間
商品化権の許諾期間としては、半年から2年間程度の間となる場合が多いと思われますが、ライセンシーとしては、その期間内において製造した商品の販売を完了することができるかどうかという観点から、製造コストや最低保証料のような資本投下を回収できるように検討する必要があります。また許諾期間完了時の在庫品の取り扱いについても、あらかじめ合意しておくことが望ましいでしょう。
条文例:期間満了時の在庫品の取り扱い
第〇条(売れ残り在庫の販売権)
ライセンシーは、本契約の販売期間満了時において本商品の製造済みの在庫品があるときは、その在庫品については、本契約の規定に従い、販売期間終了後も販売することができる。
競業避止義務
許諾商品について競合商品との競争を回避したい場合、商品化権許諾契約において、ライセンサーに対し、同種の商品について著作物の使用を許諾しないように義務付けることとなります。このような競業避止義務が課せられる場合、当該ライセンシーに独占的な使用権が設定されることとなるため、ライセンサーとしては、許諾期間の範囲やロイヤリティーの支払方法について慎重な検討が必要です。
検数証紙の貼付
「検数証紙」とは、許諾商品にこれを付すことにより、ライセンサーが、ライセンシーによる許諾商品の販売数量について管理するために付される証紙です。ライセンシーは、許諾商品の製造販売に先立って予定数量分の検数証紙の交付を受けることとなります。副次的には、検数証紙のない偽造品の流通を予防する意味合いもあります。
法律上の根拠を有する証紙ではなく、あくまで私的に発行される証紙であるため、ライセンサーにおいて、許諾商品の数量管理に実効的な形式で作成すれば差し支えありません。
著作権表示
著作権表示とは、「<著作者氏名> ○○年公表」のように、公表年とともに著作物の著作者を表示する表記のことを指します。商品化権許諾契約において、著作権表示についても指示をしておくことが一般的です。現行法上は、著作権表示がなくとも著作権は創作と同時に成立しますが、ベルヌ条約に批准する以前のアメリカにおいては、著作権表示の付与が著作権を行使するための要件であったため、アメリカを中心にこうした著作権表示を付す商慣習があります。
なお著作権表示に表示する氏名としては、本名ではなくペンネーム等で構いません。ただしペンネームの本人が一般に知られていない場合、著作権の保護期間が「著作者の死後70年」から「公表から50年」となってしまうおそれはあります。このようなことを防止するため、著作権登録制度を利用し、文化庁に「実名の登録」をしておくことにより権利保護期間を保全しておくことができます。
商品化権と二次的著作物
著作権法上、「商品化権」は複製権や譲渡権ないしは翻案権として構成されるため、原著作物の翻案によって創作された二次的著作物の取り扱いについても、商品化権許諾契約に置いて合意しておく必要があります。
二次的著作物とは、例えばキャラクターを原著作物とするフィギュアや、漫画を原作とするアニメなどのことを言います。これらの二次的著作物のうち、それ自体に創作性が認められる部分については、原著作物の著作権とともに、二次的著作物の著作者の著作権が成立します。
著作権は登録を必要とすることなく創作により当然に成立するため、当事者に何らの合意もない場合には、二次的著作物に係る著作権はライセンシーに帰属します。この場合、ライセンサーとしては、例えば同じキャラクターの商品化を別のライセンシーに許諾したときに、二次的著作権を有するライセンシーにより、その著作権の侵害を主張されてしまうリスクがあります。
そのためアニメ化や映画化のように、二次的著作物の著作権がライセンシーに帰属することが一般的な取引を除き、ライセンサーとしては、以下のような規定により、二次的著作物の著作権についても、ライセンサーに帰属することを明らかにしておくことが考えられます。
条文例:二次的著作物の著作権について
第〇条(著作権の帰属)
ライセンシーが本商品の製造販売にあたり創作することがある著作物の権利の全部(本著作物の二次的著作物に係る権利を含むが、これに限られない)は、別段の定めのない限り、著作権法第27条・同法28条の権利を含め、全てライセンサーに帰属する。
なお二次的著作物の著作権がライセンシーに帰属することとするときは、ライセンサーに対し、ライセンサーが申し出たときは、その使用の許諾を義務付けることを検討する必要があります。
商品化権許諾契約と独占禁止法
知的財産のライセンス契約に対しては、知的財産権制度の趣旨に反すると認められるような行為を除いて、原則として独占禁止法は適用されません。そのためこれらのライセンス契約において、許諾地域外でのライセンシーによる知的財産権の行使を制限することは、独占禁止法上の問題を生じないというのが原則となります。
独占禁止法第二十一条: この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
ただし特許権等の産業財産権においては、メーカーによる小売価格までライセンサーが決定することは、自由競争における事業活動への重大な制約になるとして、独占禁止法上「再販売価格の拘束」に当たり、禁止されています。これに対して著作権については、さらに特例的措置が定められており、ライセンサーはメーカーによる小売価格を決定することができます。
独占禁止法第二十三条第一項: この法律の規定は~(中略)~相手方たる事業者とその商品の再販売価格~(中略)~を決定し、これを維持するためにする正当な行為については、これを適用しない。
同条第四項: 著作物を発行する事業者又はその発行する物を販売する事業者が、その物の販売の相手方たる事業者とその物の再販売価格を決定し、これを維持するためにする正当な行為についても、第一項と同様とする。
そのため商品化権許諾契約においては、製品のデザインに対する監修とともに、その小売価格等についても、ライセンサーによる事前の承認を求めることが広く行われています。小売価格を一定額以上に維持することにより、安売りによるキャラクターブランドイメージの毀損を防ぐとともに、販売価格からのランニングロイヤリティーの支払いを担保することができます。
条文例:ライセンサーによる小売価格
第〇条(小売価格の承認)
ライセンシーは、本商品の小売価格を変更する場合は、あらかじめライセンサーによる承認を受けなければならない。この場合において、ロイヤリティーの額を変更する必要があるときは、当事者の協議の上、ロイヤリティーの額を変更することができる。