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顧客紹介契約について

更新日:7月27日

顧客紹介契約とは


顧客紹介契約」とは、事業者に対し、顧客をあっせん、紹介または取次することを内容とする契約です。事業者は紹介手数料を支払う一方で、商品や役務を販売する営業機会や業務提携のためのパートナー等を得ることができます。創業時や新規事業の立ち上げ時など事業の拡大期においてメリットのある契約です。既存の取引先を個別に紹介するケースの他、マッチング用のwebサイト等を用いて集団的にサービスを提供するケースもあります。


いずれの場合においても、あっせんを受けた取引自体は、紹介先との間に成立するため、紹介事業者そのものはその当事者とならない点に特色があります。そのため顧客紹介契約書においては、紹介契約料の支払いなどの一般的な契約条項の他、あっせんをした紹介事業者があっせんにより成立した契約について当事者としての責任を負わない旨など、固有の免責条項が置かれることとなります。


顧客紹介契約における検討点


顧客紹介契約の締結における主要な検討事項としては、以下のような点を挙げることができます。


紹介手数料の支払いスキーム



第一に検討するべき点としては、紹介手数料の発生の条件およびタイミングがあります。


一括払い方式


既存の取引先を個別に紹介する場合においては、あっせんを受けた事業者間での契約が成立した段階において、その業務の対価の何割かに相当する金額または一定の固定額を紹介手数料として請求することが考えられます。この場合、まとまった金額を短期間で回収することができるほか、あっせんした業務に関する紛争や紹介先の資力などについて、紹介事業者にリスクが発生しにくいという利点があります。また紹介先としても、以後の取引については紹介手数料を気にすることなく展開することができるという点でメリットとなります。


サブスクリプション方式


webサイト上での事業者のマッチングサービスを展開する場合においては、こうした成功報酬型の紹介手数料とは別に、システム利用料として、紹介の実績や成否にかかわりなく毎月一定額を請求するというサブスクリプション方式も考えられます。この場合、紹介事業者と紹介先の双方にとって、毎月の収入ないしは費用が計算しやすく、費用対効果を検討しやすいというメリットがあります。ただしある程度マッチングサービスの利用者数が確保されている必要があります。


都度払い方式


あっせんする業務の性質が製造物の供給契約や販売代理店契約のように継続的なものである場合には、あっせんを受けた業務の成立時ではなく、その業務の過程で当事者間で発生する手数料や売買代金などに対し、その都度、その何割かに対して紹介手数料を請求するスキームも検討することができます。この場合、紹介事業者としてはいったんあっせんをすることにより継続的な収入を得ることができ、紹介先としても現実に取引が発生した段階まで紹介手数料の支払いを保留できるというメリットがあります。ただしあっせんした業務に関する紛争や紹介先の資力などについてのリスクが紹介手数料の回収リスクとして発生する他、紹介先としても、取引が長期になるほど紹介手数料の支払いに対する不公平感が生じることとなります。


直接取引の禁止


直接取引の禁止とは、あっせんを受けた事業者が、紹介事業者のサービスを介することなく、直接に商品や役務の取引をすることを禁止することを指します。このような直接取引が自由にできてしまうと、紹介手数料を回収することができず、安心して紹介をすることができなくなってしまうため、顧客紹介契約書においては必須の条項となります。


直接取引の禁止の方法としては、単に直接取引をしない義務を課す方法のほか、直接取引をした場合には、仮にその取引が紹介サービスを介したものであるとすれば発生していたはずの手数料を請求する方法もあります。これは民法135条のいわゆる「条件成就の妨害」に関する定めですが、契約書上で明記することにより抑止効果が期待でき、また契約違反としての対抗措置(損害賠償の請求や契約の解除など)が可能となります。


民法135条条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。

ただし実際に直接取引がされた場合において紹介事業者がそれを確知することは容易ではない場合もあるため、実効性を確保するため、紹介先に対して、その疑いや恐れがあるときは、報告や調査を求めることができる旨を契約書で定めることも考えられます。


免責事項


顧客紹介契約は、顧客を紹介することで紹介事業者としてのサービスは(少なくとも契約上は)完結し、以降、その顧客と契約を締結するかどうかという判断を含め、その契約の履行をし、相手方から債権の回収をする等の責任は、紹介先がこれを負担することが一般的です。


ただし顧客紹介契約においてこの点を明確にしていない場合、たとえば紹介した顧客が債務不履行に陥った場合や、あっせんした業務で納品された製品が欠陥品であった場合など、紹介先の当事者間で紛争が発生した場合に、不適切な紹介先をあっせんしたことその他の事由により、その損害を紹介事業者に対して求償されてしまったり、紹介手数料の返金を求められるおそれがあります。


このようなリスクを予防したい場合には、こうした事由を免責事項として契約書にあらかじめ規定しておく必要があります。一方で、もし紹介を受ける立場であれば、紹介された顧客に取引をキャンセルされた場合などに、その紹介手数料を返金してもらうよう契約書に明記することを求めることが考えられます。


またこのような事態を発生させないため、契約書において上記のような予防措置をとっておくことはもちろんとして、紹介後においても、可能であれば、紹介先との定期的な情報交換を行い、業務の進捗状況は良好か、紹介した顧客の満足度はどの程度か、何かしら問題が起きていないか等、紹介事業者が確認することが重要です。


紹介事業者の立場・権限


顧客紹介契約において検討するべき点として、さらに紹介事業者がどのような立場と権限で顧客を紹介するのかという点を明記しておく必要があります。代理店契約とは異なり、顧客紹介においては、一般に紹介事業者が紹介先を代理して顧客と契約を締結することまでは予定されていません。


もし仮に紹介事業者が顧客と契約を代理して契約してしまった場合、その契約の内容や顧客の属性が紹介先にとって好ましくないときには、トラブルとなる恐れがあります(法律論としては、無権代理としてその契約を解除できることが原則ですが、こうしたトラブル自体、事務処理のコストがかかり、また紹介先の信用を毀損してしまう可能性もあります)。


このようなことを予防するため、顧客紹介契約においては、紹介事業者が紹介先を代理して契約を締結するものではないことを明記しておくことが無難です。


契約期間・解除


紹介事業者の立場からすると、契約期間と解除の定めは重要です。顧客紹介契約は民法の位置付けでは準委任契約となることが多いと思われますので、民法651条に基づき、各当事者はいつでも契約を解除することができます。


民法第651条第1項

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

したがって、もし紹介予定の顧客との商談の進行中に紹介先に契約を解除されてしまったような場合には、その商談を破棄せざるを得ず、思わぬ損害を被るおそれがあります。このような事態を予防するため、契約期間を明確に定め、契約期間中は解除に一定の制限を課す(合意解除しかできない、一定の予告期間を設けるなど)必要があります。


独占業務と顧客紹介契約




あっせんに係る業務が士業や特定の許認可を受けた事業者の独占業務である場合、紹介事業者がそうした独占業務の免許を有していないときは、はたしてその業務の紹介を適法にできるのかどうかという問題が生じます。これに関しては、その独占の根拠規定の趣旨にもよりますが、以下のような行政解釈ならびに判例があります。


宅建業と顧客紹介


宅建業法は、その2条及び3条において

宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為

を業として行う場合には「免許を受けなければならない」としており、宅建業者に対して一般の事業者が顧客紹介をすることがその「代理若しくは媒介」に当たるかどうかが問題となります。この点に関し、経済産業省は、「グレーゾーン解消制度」の回答*において、このような行為は「物件の説明、契約成立に向けた取引条件の交渉・調整の行為は、顧客と不動産業者との間で直接行い、事業者は一切関与しない」限りにおいて、宅建業法に違反するものではないとの解釈を示しています。


上記の回答の内容によれば「不動産の売買や賃貸借を検討している顧客の情報を、同意を得て不動産業者に提供し、顧客が希望する場合には両者の初回面談に同席し、売買契約が成立した際には不動産業者から手数料を収受する行為」については、顧客と不動産業者の交渉に同席するのみでその内容に紹介業者が関与しない限りにおいて、違法となるものではないということになります。つまり「紹介」の上、交渉に「同席」し、手数料を請求する程度であれば問題ないと考えてよいでしょう(ただしあくまで行政解釈ですので、万が一紛争となったときに裁判所が異なる判断をする可能性はあります)


*不動産業者に対する顧客情報提供等に係る 宅地建物取引業法の取扱いが明確になりました ~産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用. H28/12/27. https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/161227_press2.pdf


税理士と顧客紹介


税理士法は、その52条において

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない

としており、2条1項3号において「税務相談」を税理士業務としていることから、税理士紹介会社が顧客に対し税理士を紹介することがこの「税務相談」に該当し、税理士法違反とならないかどうかが問題となります。これに関しては、この問題を明確に扱う行政解釈や判例がいまだなく、専門家によって見解も異なるようです。ただし業界慣行としては税理士の紹介や斡旋は広く行われており、ただちに違法とされる可能性は低いと言えるかもしれません。


また上記の宅建業に関する経済産業省の回答を敷衍するのであれば、税理士業務に関しても、顧客と税理士の契約内容や業務内容にまで関与しない限りにおいて、適法とみる考え方も成り立ちます。


弁護士・司法書士と顧客紹介


弁護士及び司法書士に対する顧客紹介に関しては、弁護士倫理規定および司法書士倫理規程において、弁護士又は司法書士でないものに対する紹介手数料すなわちキックバックの支払いが禁じられており、これらの士業に対する顧客紹介を有償で行うことは、当該士業者において、その士業の倫理規程に対する違反となるため、これを適法にすることはできません。ただし無償で紹介する場合は、差し支えありません。なお実務上は、「調査費用」や「情報提供料」、「広告費用」等の名目でキックバックに相当する手数料を支払うことが行われる場合もあります。この場合、手数料の計算方法を定額方式にする等して、紹介手数料と解釈されないように対策しておくことが必要です。


司法書士倫理14条司法書士は、司法書士でないものから業務のあっせんを受けてはならない。
弁護士職務基本規程13条弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払っては ならない

行政書士と顧客紹介


許認可申請や在留資格の申請などに関し、行政書士に顧客紹介を行う場合もあるかと思われます。その場合、行政書士に関しては、上記の他士業と異なり、倫理規定等で明確に紹介手数料の支払いを禁止する定めはなされていません。そのため紹介手数料の授受が直ちに違法となるおそれは低いと思われますが、品位保持義務などの規定を根拠に、他士業と同様に紹介手数料=キックバックの支払いは禁止されているとの解釈もあり、このあたりははっきりしない部分ではあります。


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