top of page

判例の効力と判例の調べ方

更新日:2022年11月8日



本記事は、メル行政書士事務所が執筆・運営しています。


判例の効力


判例とは、過去に裁判所が個別の裁判に対して下した判決のことを指します。「判決」と表記せず「判例」と表記するときは、その判決が有する法令解釈の先例としての価値に重点を置いていると言えます。アメリカやイギリスのような英米法圏においては、判例は、それ自体において裁判の基礎とすることができる「法源」であり、制定法と同様の法的効力がありますが、ドイツやフランスそして日本のような大陸法圏においては、判例にはこのような意味における法的効力ないしは法的規範としての効力は認められていません。判例は個別の事案に対する事実認定と法適用の結果であり、それ以上のものではないのです。


しかしそれにもかかわらず法的な協議や紛争が発生した場合においては、当事者ないしは代理人によって判例はたびたび引用され、個別の事案とその判例との異同が検討され、その結果において法的な争点が検討されることとなります。


既判力


これは第一には、判例は普遍的な法適用の基準となる「法源」ではないとしても、その判決の当事者間においては、民事訴訟法上の「既判力」を有し、その判決に矛盾する主張をすることができないためです。たとえばXとYとの裁判において、Xの甲建物の所有権が判決により確定されたときは、YがXに対してYがその所有権を有する旨の判決を求める裁判を提起しても、Xが判決後にYに譲渡した等の後発事情がない限り、前訴の既判力により、この後訴は棄却されることとなります。


民事訴訟法114条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

ただし「既判力」は判決の結論である「主文」に対してのみ及び、その「理由」については既判力が及ばず、また裁判の当事者が異なっていても、こうした既判力は及びません。そのためたとえばXがZからの売買により甲建物を取得したというような事情に基づいてXY間の前訴の判決がされていたとしても、その後にZがXに対し、甲建物の返還を求めて起訴したようなときには、これに対しては前訴の既判力が及びません。その結果、裁判所はXZ間の売買に関する事実関係および権利義務について、再び審理をすることとなります。


争点効


したがって既判力は、何度も紛争の蒸し返しをすることを許さないという「訴訟経済」に基づいて認められる効力であり、その判例に法規範性を付与するようなものであるとは言えません。ただし学説上は、判決の理由であっても、その訴訟において当事者間の争点となり実質的な攻撃防御の応酬があった事項については、後訴においてそれに反する主張をすることができないとする「争点効」を認める考え方もあり、既判力ないしはこれに準ずる効力の外延については、いまだ明確でない部分もあります。


判例が重視される第二の理由としては、とりわけ最高裁判所の判例の場合、高等裁判所においてその判例と矛盾する判決が下された場合に、これが「判例違反」として最高裁判所に対する「上告受理申立」の事由となることが挙げられます。すなわち判例と異なる判断をした高裁判決に対しては、そのこと自体を理由として。最高裁判所に上告を受領するよう申し立てることができるのです。


民事訴訟法318条上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

 

また最高裁判所においても、最高裁判所の過去の判例と矛盾する判決を下す場合には、「大法廷判決」により判決をする必要があります。「大法廷判決」とは、通常の小法廷(裁判官5人)による判決ではなく、最高裁判所裁判官の全員(裁判官15人)による評議を経た判決のことを言います。


裁判所法10条事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

最高裁判例


このように最高裁判所の判例は、必ずしもそれ自体「法源」として法適用の基準となるわけではありませんが、これに反する判断に対して慎重を期させるという手続き的な特別の法的効力が認められています。そのため最高裁判所の判決のみを「判例」とし、それ以外の裁判所による判決を「裁判例」として区別することもあります。


判例の法源性


そして第三に、判例が重視される理由として、あくまで憲法をはじめとする法令に基づいて法適用を図るとしても、条文による記載はすべての個別具体的な事由に対応しているものでもなく、また法改正には一般に長期を要するため、立法当時からの技術の発展や経済環境、生活環境の変化によって、必ずしもその条文を文言通りに解釈することが適切でなくなっている場合もあり、そうした実定法の空白や不備については、判例によってこれが補足されることとなるためです。


研究者による学説もこれに準じる位置付けとなりますが、すでに同一事項についての判例が存在する場合には、その判例が古いものでない限り、判例の方が重みとしては優先します。したがってある特定の条文をどの程度「拡張解釈」ないし「類推解釈」したり、あるいは「縮小解釈」するべきかというような法技術的な問題の基準として、判例が重要視されます。


判例の調べ方



判例の調べ方としては、最も基本的な調査方法としては、判決をした裁判所に出向き、その閲覧謄写を求めるという方法があります。民事訴訟法91条1項に

何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。

とされており、だれでも裁判例の閲覧を請求することができます。ただし謄写については同3項に

当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができる。

とされていることから、利害関係の「疎明」が必要となります。なお「疎明」とは、一応もっともらしいという程度の証明を指します。


国会図書館の資料


このほか、国立国会図書館をはじめとする図書館において、「大審院民事判決録」や「最高裁判所判例集」等の判例集を参照する方法もあります。一部についてはデータベースとしてインターネット上で公開されているため、判決年月日や事件番号を知ることができれば、これらのデータベースから判例を調査することができます。


民間判例集


また重要な判例や有名な判例については、「判例百選」や「判例六法」のような書籍から判例の概要や判決の年月日などを調べることができます。このような書籍に掲載されている判例はその後の学説や判例の展開に重要な影響を与え、ひとつの確立された指針となっている場合が多いことから、必ずしもピンポイントの判例でなくとも、ある特定の論点や条文についての前提知識を確認したい場合などに役立ちます。


裁判例検索


最も簡便に広範な判例を調査できる方法としては、最高裁判所の「裁判例検索」にアクセスし、判決の年月日、事件番号、キーワードないしは準拠法令などから関連判例を検索する方法があります。必ずしもすべての判例が掲載されているわけではなく、「判例百選」や「判例六法」に掲載のある判例であっても掲載されていない場合もありますが、相当数の裁判例がデータベース化されて公開されています。また判決の原文を確認できるため、判例の趣旨を詳細に確認したい場合にも役に立ちます。


なお「裁判例検索」には最高裁判所以降の判例が掲載されており、戦前の大審院判例については掲載されていないことから、これらについては名古屋大学が公開している「裁判例データベース」において、明治大正期の判例を確認することができます。ただし戦前の昭和期の判例については、「裁判例検索」にも「裁判例データベース」にも掲載されていないため、他の判例調査の方法による必要があります。


上記の他、有料の判例調査システムや判例データベースも公開されており、これらの有料システムを使用して調査することも考えられます。とりわけ判例年月日等が不明だったり、判決内容から検索をしたい場合には、こうした有料システムが調査手段として簡便となると思われます。

コメント


bottom of page