英文契約書の当事者表記
日本語の契約書においては、しばしば当事者が「甲」「乙」「丙」などと略して表記されます。英文契約書においては、「甲乙」のような慣例表現が存在しないため(「partyA」「partyB」のような表記がこれに当たりますが、契約書で使用する例は少ないでしょう)、意味的な略称を用いるか、または当事者費用期を短縮して用いることとなります。
意味的な略称としては、日本語の契約書においても近年混同の防止と意味の明確化のため「委託者」と「受託者」や「買主」と「売主」のような当事者表記がなされることが増えてきていますが、このような趣旨で、当事者について、「Buyer」と「Seller」や「Licensor」と「Licensee」のような表記がなされることがあります。当事者の立場が分かりやすく、混同の防止にもなるため実務上有益な表記法です。
当事者表記の短縮例としては、例えば「West-Coast Traveling Counpany」のような法人名称の場合、「WCTC」と略称表記することも広く行われています。
WHEREAS,NOW THEREFOREの意味
英文契約書の冒頭において「WHEREAS,~~」「NOW THEREFORE」のような表記が用いられることがあります。これは「約因(consideration)」を記載している部分であり、この「約因」とは、合意の成立により当然に契約の成立を認める日本法にはない概念であり、英米法圏において、契約の背景となった当事者間の対価的な交換条件のことを指し、約因がなければその契約は執行力を有さない(当事者が任意に履行することはできるが、裁判により強制することができない契約)とされています。
「約因(consideration)」には、日本語の契約書であれば目的条項や前文に記載するような内容(契約の締結に至った経緯、契約の目的、当事者の役割など)を記載します。「RECITALS:」との表題または「WITNESSETH:」との表題が役員を宣言する箇所に付される場合もあります。
例文
開示当事者は、受領当事者にサービスを委託する目的で、受領当事者に秘密情報を開示することを望み、受領当事者は、開示当事者に本サービスを提供する目的で、本サービスに関する秘密情報を受領することを望んでいる。したがって、本契約に含まれる相互の合意の対価として、本契約の当事者は、以下のとおり合意する。
WHERE AS, Disclosing Party desires to disclose Confidential Information to Receiving Party for the purpose of outsourcing its services to Receiving Party (the “Service”),
WHERE AS, Receiving Party desires to receive Confidential Information relating to the Service for the purpose of rendering the Service to Disclosing Party (the “Purpose”),
NOW THEREFORE, in consideration of the mutual agreements contained herein, the parties hereto agree as follows:
Therein, Thereof,Thereunderの意味
英文契約において用いられる慣例表現のひとつとして「Therein」「Thereof」が挙げられます。
これは「in There」「of There」の意であり、「Therein」は「その場所で」「その時点で」、「Thereof」は「当該」「その~」などの翻訳が当てはまります。「Thereunder」は「under There」の意であり、「その場合において」などの趣旨となります。直前の文章で登場している用語や文脈を「There」により受けて、それを他の用語の意味の限定や対象の特定に役立てることができるため、「Such」等とともに英文契約における頻出表現となっています。
例文
商品の危険はその時点において売主から買主に移転するものとする。
The risk of the shipments shall pass from Seller to Buyer therein.
甲は、製品が当該仕様に適合していることを保証する。
PartyA warrants and represents that the Product confirm to the specifications thereof.
製品に要する当該輸送費は、甲の負担とする。
The shipping costs of Products thereof shall be borne by PartyA.
Herein, Hereof,Hereunderの意味
英文契約の書面において目にする「herein」とは、in hereの意であり、ここで「here」とは「本契約」の意味であり、hereinで「本契約の」との意味となります。類似の頻出表現として、「本契約において」の意味で「hereunder」が用いられる場合もあります。ただし文脈により、「here」が「本条」や「本項」等を指す場合もあります。またin and after hereの意味で「hereinafter」が用いられることもあり、この場合「本契約において以下~」の意味となります。
例文
甲は、乙に対し、本契約の条件に従い、当該製品を販売することを望んでいるところ、
WHEREAS PartyA is willing to sell such preoducts to PartyB upon the terms and conditions set forth herein,
次に掲げる用語は本契約においてそれぞれ下記を意味するものとする。
The following words and terms shall have the following meanings when used herein.
本契約において定めのない事項及び疑義については、両当事者が誠実に協議して解決するものとする。
Any question arising out of or associated with this Agreement or any matter not stipulated herein shall be settled on mutual consultation in good faith by and between the parties.
Providedの意味
日本語の契約書における「ただし~この限りではない」との意で「provided~」「provided that~」「provided that, however,~」のような表記が英文契約書で使用されることがあります。これは例外条件や補足事項がある場合に、但し書きを付す趣旨で使用する表現です。
例文
本契約は記名押印の日に発効して1年間継続するものとし、その後1年ごとに自動更新される。ただしいずれかの当事者が、本契約の有効期間の満了日の1ヶ月前までに、相手方から別段の通知を受けた場合は、この限りではない。
This Agreement shall become effective on the Effective Date, and, continue for one (1) year, and shall be automatically renewed for each subsequent one (1) year. However, provided that, this shall not apply if either party has been otherwise notified by the other Party by one (1) month prior to the expiration date of the then effective term hereof.
Said,Such,Aforesaidの意味
日本語の法律文書において頻用される「当該」の訳語に相当する用語として「said」「such」「aforesaid」等が用いられる場合があります。これらの用語は、直前の文脈で特定ないしは限定された趣旨を引き続きいて用いる場合に使用されます。ただしこれらの用語はいわゆるlegalismとしてその使用が忌避される傾向にあり、「that」等の平明な用語法が好まれる傾向にあります。
例文
当社が利用者に対して所定の方法により通知をしたときは、当該通知は通常到達すべき時に到達したものとみなします。
When the Company gives notice to a user by a prescribed manner, said notice shall be deemed to have arrived at the time when it should normally have arrived.
IN WITNESS THEREOFの意味
英文契約書の末尾に「IN WITNESS WHEREOF, both Parties have executed this Agreement in duplicate as of the date set forth above and have each retained one copy.」のような文章が付記される場合があります。これは「以上、甲乙間に契約が成立したので、本契約書を2通作成し、甲乙各1通を保有するものとする。」という意味であり、契約の成立と契約書を当事者それぞれがその証拠としてそれぞれ一通ずつ所有することを確認する文言となります。ここで「IN WITNESS WHEREOF」は、「上記を確認し」の趣旨の古風な表現となります。